2006年11月28日

トトロの木々紅葉す - 「枯葉」に寄せて


totoro 002.jpg 団栗の生る木、小楢の木が紅く紅葉している。
 紅く紅葉する、とはくどい言い方になるけれど、楢や椚は黄色に色づくものと決めていたので吃驚している。すっかり色づいた山々の雑木を見ても、紅く色づくのは椛や漆、カミソリの木、それに高木などに絡まる蔦の類で、現に、小庭の椚や小楢も黄色に色づき、辺りをほんのりと明るませている。

 急に、「枯葉」を聴きたくなって、repeat1でイヴ・モンタンのCDに耳を傾けながら、鉢植えを眺めている。何回も何回も聴いている。
 「枯葉」は、昔、行きつけの酒場で、マスターの弾くピアノに合わせて随分歌った。もっとも当方はフランス語が読めないので、ナット・キング・コールの英語ヴァージョンだった。思い出深い歌なのか、この歌を弾き始めると、マスターは何時までも何時までもエンドレスに弾き続け、歌うことを止めさせなかった。
 彼は元々、横浜のクラブのバンドでギターを弾いていたそうで、名演奏を何度も聞かせてもらった。身体を壊してからは、負担になるからとピアノに転じていたのだが、天分とはあるもので、客の求めに応じて何でも弾きこなしていた。
 
 ある日、久し振りで店に寄ると、看板間近い時間で客が引けた後とはいえ、いやに店内がガラーンとしていた。ポッカリと、何かが抜け落ちたような冷たい気配が漂っていた。
 カウンターに近寄ると、ママが一人ぽつんと座って水割りを飲んでいる。声を掛けても、片笑窪で応えるだけで、何時もの元気がない。マスターの姿も見えない。店内には「枯葉」が流れていた。

「出て行っちゃった。」
「!?」
「アイツ、お金、有るだけ持って、居なくなっちゃった。」

♪Since you far away the days grow long
And soon I'll hear old winter's song
But I miss you most of all , my darling
When autumn leaves start fall
posted by vino at 17:55| Comment(6) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月22日

偕楽園公園修繕工事日記(その5)


ブログ.JPG
編集.JPG
 前回の日記でお約束した、掻折れ釘です。(人によっては、貝折れ釘とも皆折れ釘とも書くようです。)
 まず、二本並んだもの。長いほうが今回の解体工事の際抜いた釘、短い方は未使用のもの。コンベックスと見比べているのは、やはり解体の際出たもので、何回も再使用されて、曲がったり、錆びたり随分傷んでいます。これらを、京都の飾り金物職に送って打ち直しをしてもらい、再使用します。先端が錆で著しく腐食しているものは、止むを得ません、同寸法のものを新規に作ってもらいます。
 本身は四角形をしています。(クリックしてご覧下さい。)
 長いもので4寸もの(約12a)、化粧垂木を、桁や棟木に取り付けるのに使用します。
 短いものは8分もの(約2a4_)、化粧野地板(棟梁たちは“2分3厘”と呼んでいる、柾目の通った薄い杉板)を垂木に打ち付けます。
 昔は、いや今でも本格的なものは砂鉄から打ち出しますが、そうなると一本当たり数百円もする非常に高価なものになります。大事に大事に使い回しをしなければなりません。
 赤松の平角材に、墨付けも始まりました。大きな部材なので刻み加工も慎重に行わなければなりません。かの有名な法隆寺出入りの大棟梁だった西岡さんでさえ、吟味した大部材を前にして最初に鑿や鋸目を入れる時は、「これでいいのか」、と一呼吸入れると言う話を聞きました。我々如きにおいてをや、です。
 
 今年は初冬にしては天候が安定せず、気が揉める毎日です。これからはお天気との勝負にもなります。
 工期内完工は絶対条件、と釘を刺されていますので・・・。

11月23日追記:設計監理の先生から、写真右側の古い釘は、掻折れ釘ではなく、巻頭(まきがしら)かもしれないという、指摘がありましたので付記します。
posted by vino at 19:51| Comment(4) | 修繕工事日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月19日

偕楽園公園修繕工事日記(その4)


ブログ編集 009.JPG
ブログ 140.JPG
 茅葺屋根を解体して、すっかりスリムになった屋根。何回か行った修理の跡が見える、化粧野地板。上から2枚目のものは、昔の手挽き鋸で挽いた貴重なもの。割れが入って痛々しいけれど、繕いをして再使用する予定。使用されている釘は、掻折釘(かいおれくぎ)と言って、頭部を鉤状に折り曲げたもので、砂鉄から打ち出されます。本体は、一般に見られる丸釘と違って四角です。(現物は後日お見せします。)

 その野地板が剥がされ、垂木も外されて丸裸の小屋組み。天辺で横に見えるのは小屋組み本来の棟木、縦に太く見えるのが束柱、間に見える細目の部材は、立て格子の組子。手前の横木は化粧垂木を受ける桁、左側の束(実際は真ん中の束)のほぞが異様に長くなっていますが、これは今のところ、謎です。棟梁のIさんも首を傾げるばかりです。
 当初の大工の遊び心なのか、仕口の納まりの約束事なのか、設計監理者の宿題にもなった代物。
 修繕工事の面白いのは、こんな先人の仕事ぶりを辿れることで、古材に刻まれた痕跡に創意工夫の跡や単なる失敗の跡を見つけると、思わず、イョウご同輩!と声を掛けたくなります。ですから、現在の形状からは不要のものと思われるほぞ穴なども、意味あるものとして残す場合もあります。ここが難しいところで、補足材の断面欠損が心配される場合には、「旧痕有」として墨で書き残したりもします。
 古いもの全てが良い、と言うわけではありませんが、残せるものは残す、引き継ぐものは引き継ぐ、これが基本方針です。継承とは、形を受け継ぐことだと思います。形の中から立ち上ってくる何かは、心して受け取れば、自ずと感じ取れるはずだ、と。

 次代へ繋ぐロマンの中で、仕事をしています。
 
posted by vino at 09:30| Comment(0) | 修繕工事日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月14日

交差する時間 − 水平線への想い

空と海とが鬩ぎ合う辺りに 仮初の影
交わることのない 碧と蒼の
その向う 
空は無限に広がると言うのに
海は空を見限った刹那
自らを慰撫するように
円運動に回帰して行く

玉響島影を見れば
水平線は杳として消えて
浮かぶのはあなたの面影ばかり

汀から わずかに10数キロの
それを遠くするのは あなたの微笑み
それを近くするのは わたしの憧れ

潮風よ歌ってよ わたしは今木陰に佇むことを
潮風よ歌ってよ わたしは今楽園に憩うことを

思い出だけにしないで下さい
何時も想っていて下さい
何時も祈っていて下さい
思い出していて下さい
思い出を置き去りにしないように

あれほど悲しんだのに
あれほど恋をしたのに

気付く度 薄れ行く想いが 怖い

空と海とが鬩ぎ合う辺りに 仮初の影
交わることのない 碧と蒼

潮風よ伝えてよ わたしは十分悲しんだことを
潮風よ伝えてよ わたしはわたしであることを
posted by vino at 22:27| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『祝婚歌』

 結婚式場で司会業をしている知人の話。
 去る日去る時、然る結婚式で・・・。
 
 花嫁さんの叔父さんに当たる人が祝辞に立って、静かに穏やかに、次の詩篇を朗読した由。(話を聞いて早速ネットで探しました。『祝婚歌』谷川俊太郎編 書肆山田 所収)
 美しくユーモアに満ちた詩篇なので、長くなりますが引用させていただきます。(無断でごめんなさい。)


祝婚歌  吉野 弘

二人が睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで
疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい

 
 花嫁は頷きながら涙を流して聞いていましたと。
 花婿は立ち上がって首(こうべ)を垂れたまま、花嫁の肩に手を置いて聞いていましたと。
 それまでざわついていた席が静まり返り、朗読にみな聞き入っていましたと。
 朗読が終わったあと、ベテランの司会氏も驚くほどの静謐な時が流れていましたと。司会者にとって、<間>の空くほど怖いものはないのに、このときの<間>は、鳥肌が立つような、何とも言えぬ時の流れでしたと。
posted by vino at 12:06| Comment(6) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月12日

偕楽園公園修繕工事日記(その3)

 既設茅葺屋根の解体作業始まる。
 前回葺き替えしてから30年近く経ち、その間、数回挿し茅(傷んだ部分だけを取り除き、新しい茅を挿し込む、謂わば応急処置)で済ましてきたが、雨漏りのため棟木や化粧野地板など、小屋組み本体に影響が出始めたので、全面的に葺き替える。
 もっとも今回は、親柱と冠木を取り替えるため、小屋組みまで解体するので、どうしても屋根も解体しなければならない。
 茅葺き師は、地元のSさん。何年か前にも、好文亭奥御殿の茅葺屋根の補修などをしているベテラン。70歳の大台を超えたけれど、足場の無い屋根の上をヒョイヒョイと身軽なもの。鎌倉の社寺仏閣などへも出張仕事で手掛けている。
(写真は、茅の撤去作業、そして茅を取り除いた後の姿。野棟木、叉首、屋中竹、屋縫竹など普段は見られない茅葺屋根の下地を見る。)
偕楽園修繕工事ブログ編集用007.JPG
偕楽園修繕工事ブログ編集用002.JPG
posted by vino at 11:53| Comment(0) | 修繕工事日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月11日

交差する時間 − 砂浜に(断章)

水平線を見ながら
砂浜に素っ裸の仁王立ちで
俺は小便をする
 
飛沫く間もなく
小便はチョボチョボと
砂に吸い取られてゆく
 
汀、波は砂浜を
一枚の鉛板に均して引いてゆく

太陽は海面を灼き
雲は空をゆく

水の巡り、廻る宇宙の定義

おー、生命の輪廻の中で
砂浜に素っ裸の仁王立ちで
俺は小便をする
posted by vino at 20:11| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月04日

偕楽園公園修繕工事日記(その2)


松材検査 於ュ児島屋 023.jpg
松材検査 於ュ児島屋 002.jpg このところ、修繕工事の段取りやら何やらで些かへばり気味。ブログの更新も侭ならず。
 去る10月29・30日、今回表門の親柱・冠木に使用する赤松材の工場検査のため、設計監理の先生と岩手県の大船渡に行ってきた。東北道を利用して、往復約900kmの行程だった。

 関東一円では、松喰い虫の害によって、建築材として使用できるような赤松は全滅状態。輸入材に頼りきった材木市場や山林行政の現状を告発するように、赤茶色に立ち枯れた赤松を目にする。東北地方にも一部松喰い虫が入ってきているが、関係者の懸命な努力で、何とか大船渡で止まっている、と材木店主の話。市場原理や経済性のみで動く昨今の世の中だけれど、豊かな山林資源を是非守ってもらいたい、今なら間に合う、引いては、国土を守ることになるはずだ、と痛感させられた。
(写真は、今回お世話になる材木店の、原木の貯木場。中ほどで、誰かが歩いています。そして、今回使用する赤松材を丸太から平角に挽いたもので、40cm×25cm、長さ約5m、重さ300kg近くあります。)

 折角の機会なので、平泉の毛越寺と松島の瑞巌寺を観てきた。何を観ても、あれも勉強これも勉強と使用材や継ぎ手・仕口などの納まりに目が行ってしまう。
 土台などを覗き込んでいると、他の観光客のおじさんおばさんまで、何事や有らん、と一緒に覗き込みに来て、苦笑の連続。

 6日からは、いよいよ小屋組みなどの調査・解体作業、角材の荷受・現場加工が始まる。
posted by vino at 11:09| Comment(7) | 修繕工事日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする