2008年04月30日

てんこもり

 
DSC03712.JPG  今日は、新緑の峠道を越えて、笠間市へ。目的は、笠間芸術の森公園で開かれている「陶炎祭」で、雑器を探すこと。湯飲み茶碗などの食器は家人に任せて、当方が目をつけたのが、例によって酒器。若手の陶芸家の作った徳利と猪口。釉薬の色合いと、徳利の肩辺にある石割れだろうか、笑窪が目に付いたので求めた。この「陶炎祭」は、陶芸家自身が設えた出店で、作家と直に話しの出来るのも魅力の一つなのだけれど、生憎昼時で、作家のK氏は昼食タイムで留守。
 
IMG.jpg  次いで、茨城県陶芸美術館で開かれている「荒川豊蔵展」を観る。その人となりや作品について言及する任ではないけれど、志野焼にその人ありといわれるだけあって、176点の作品群に、一点の曇りもない。何点か展示されていた、鼠志野の作品の前では、何回も行きつ戻りつして観賞。さする内、ギョッとする器が目に付いたのでキャプションを見ると、「鼠志野橋の絵茶碗・桃山」とある。豊蔵が求めたもの、とあるが私蔵したという意味なのか、その作柄を求めたと言う意味なのか、判然としないまま、溜息をついて出てきてしまった。
 
佐伯祐三展_0001.jpg  そして、笠間日動美術館へと急ぐ。こちらは「没後80年・佐伯祐三展」。画集で見たことのある「郵便配達夫」や「ロシアの少女」、「リュクサンブール公園」をはじめ、その代表作およそ90点が並んだ。そのうちの何点かの作品には、並列して、実景の写真が掲示されていた。過ぎたことを、と思わないではなかったが、佐伯祐三の呻吟の跡が伺えて、それもありかな、と納得。何しろ、彼は30歳という若さで病のため亡くなっているのだ。
 中で、どういうわけか、「酒場(AUX・CAVES・BLEUES)」の前で動けなくなってしまった。
 ちょっと欲張りすぎた一日でした。
posted by vino at 17:47| Comment(2) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月28日

二人の画家

 とある高原の湖の湖畔に、一人の画家がキャンバスを乗せたイーゼルを立ててスケッチに余念がない。
 湖面に枝垂れる一本の木を中心に、湖畔の風景を克明に描いている。 
 そこへ、酒に酔った男が近寄り、画家に訊ねた。
「あんた、どの木を描いているのかね?」
「ん!?あぁ、あの木をね、スケッチして・・・」振り返りもせずに鉛筆を動かしながら、画家が答えた。
「どの木だって?あーは、は、は、成る程成る程、あの木かね・・・。だけど、あんた、あそこの木を描いているんなら、もっと木の傍に寄ったらどうかね。その方が良く見えるってもんだ、そうだろう?そして、ようく見る。木の根っこの形から、木の肌の色具合、枝振り、葉っぱの形や色、ようく見ること」上体を揺らしながら、男はしきりに画家に話し続ける。
「君には、あの木が見えるのかね」と画家。
「あの木が見えるのかって!?冗談言っちゃいけないよ、僕ぁ目の良いことにかけちゃぁ」
画家は待たずに、「じゃぁ、あの木を囲む景色は見えるのかね?」
「景色!?見えないでどうするね、空まで青く見えらぁ、雲だって・・・」
「僕にも見えるのさ。あの木と、君の言う空や雲がね。そして、木が語り続けている昔話も聞える。木の下で語らった恋人達の話し声も聞える。そう、僕は単に木を描いてるんじゃぁないんだ。木と木にまつわる全てを描きたいんだ。そのためにはこの距離でなくてはいけない。近過ぎず、遠過ぎず。木を見て、木を聞く」
 男は、画家の話を終いまで聞かずに、どうとでも勝手にしろと、手を振りながら立ち去った。

 数年後。
 同じ湖畔に、一人の画家が、イーゼルに架けたキャンバスに絵筆を走らせている。
 傍らのベンチには、ウィスキーのポケット壜を手にした男がしょんぼりと坐っている。
 絵を描き続ける画家の背中と、湖面に枝垂れる木を交互に見続けて・・・。
 
 スランプから立ち直った画家と、スランプに陥って一枚の絵は愚か、一本の線さえ描けなくなってしまった男とが二人、同じ風景を見ている。
posted by vino at 17:59| Comment(0) | 掌編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月20日

久慈川の流れ


DSC03671.JPG                         
 久慈川は幸くあり待て潮船に真楫(まかじ)繁貫(しじぬ)き吾は帰り来む

 これは、万葉集にある常陸国の防人の歌10首のうちのひとつで、丸子部佐壮(まるこべのすけお)の歌と伝えられる。
 歌に歌われている久慈(久自)も幸く(幸久)も、古く常陸風土記にも見られ、今に現存する地名でもある。
 今を去る天平勝宝七歳(755)、防人達は、この川を下って海路、遠く筑紫の国まで遣わされたという。
 
DSC03673.JPG  今日は、何時もの源氏川を過ぎて、久慈川まで足を伸ばしてみた。堤防一面、菜の花のお花畑。あたり一面黄色一色の花の中に腰を下ろして、ボーっと水の流れを見ていた。
 
posted by vino at 19:38| Comment(2) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月12日

かげおくり

 酒場のカウンターで、旧友と飲んでいたときのこと。
「か・げ・お・く・り・・・か。その遊びは随分やった記憶はあるけれど、それを、< かげおくり >っていうのは知らなかったな」
「遊んだよな、丘の上で。そん時一緒に、股覗きもやったよな」
「やったやった、みんなは頭を下げて逆さまに自分の股を覗く、正当股覗きをやってるのに、お前、間違った振りをして、N子ちゃんのスカート覗いて、大騒ぎになったろう」

 春休み、5人の孫軍団と近くの西山公園にピクニックに行った。
 園内一帯の桜は八分咲きの、まさに見頃。丘の頂上の芝生のところで、< 花いちもんめ >や< かごめかごめ >をして遊んだ。
「じいじ、< かげおくり >って知ってる?」と、芝生に坐って小休止のとき、小5の孫娘に訊かれた。
「知らないな。どんな遊び?」
「みんな、起って。一列に並んで」
 遊びのときのその子の号令は、みんなにとっては絶対命令。
「いい?こういう風にお日様を背にして立って、自分の影をじーっと見詰めるの。瞬きしちゃ駄目よ。そして、十数えたら、さっと空を見上げるの」

「あっ、これか!これを< かげおくり >っていうのか。知らなかったよ、ありがとう。いい呼び名だねぇ」一緒に列に入った家人も、感じ入った様子で空を見続けている。
「だけどね、今日はみんなでやって楽しかったけれど、このお話し可哀想なんだよ。『ちいちゃんのかげおくり』、教科書で読んだ時は、泣いちゃった」

 春の空に、雲よりも白く、全員、手を繋いだ< かげおくり >を見た。
 帰りに、早速図書館で借りたのが、この本。 
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 『ちいちゃんのかげおくり』       あまんきみこ作  上野紀子絵    あかね書房

posted by vino at 15:46| Comment(2) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする