2011年02月23日

春の日の夕暮 ( 断想 )

 今日、一冊の詩集を捨てた。
 手垢にまみれ、折り返しやら書き込みやらで、すっかり傷付けてしまった。おまけに、綴じ込みがほつれて頁が飛んだりしている。
 詩集は手ごろな文庫本だったけれど、それらの所為でだろうか、何とも言えぬくらい「重たく」なっていた。
 奥付には、今では珍しくなってしまった、著者の朱肉の印が捺してある。随分、版を重ねた詩人だったから何回も使われた印鑑の縁は欠けてしまって、中の姓名がすまなさそうに宙に浮いている。
 印鑑の縁どりは、丸か小判形か四角かは問わず、無いと納まりが悪く、大切な意匠と知れる。
 書き込んでしまった頁を破り、折り返した頁はその皺を伸ばし、擦り切れそうな糸栞は丁寧にたたんだ。
 今日、一冊の詩集を焼いた。一度、屑かごに捨てたものを拾い出して、薪ストーブにくべた。
 ささやかな、焚書の煙が宙を行く。

 トタンがセンベイ食べて
 春の日の夕暮れは穏かです
 アンダースローされた灰が蒼ざめて
 春の日の夕暮れは静かです
(『中原中也詩集』「春の日の夕暮」河上徹太郎編・角川文庫より)
posted by vino at 19:54| Comment(0) | 独り言 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月10日

交差する時間 - 詩集

開くには
そっと静かに 開くがいい
知らぬ気に
偶然 曲がった街角で
出会った友人へ遣るように
さり気なく ちょっと会釈して
時に立ち止まって 二言三言
そのまま別れて さようなら

追いかけては逃げるもの
求めては消え去るもの

起ち上る気配の中にこそ
感応するものが見え隠れ

過ぎた日々を泣くがいい
来るべき日々を泣かないように
posted by vino at 16:40| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月07日

花、微笑む


DSC06827.JPG

小庭の梅の花付きが、今年は上々。緑萼白梅「月影」。花片を支え蕾を包む早緑の萼がお気に入り。
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2011年02月06日

もう一つの時間軸( 断想 )

 母親の胎内にいた時を思い出す、と言ったら奇異に聞こえるだろうか。
 3歳未満の記憶を、人は持たないと言われる。それは、得も言えぬ温もりと、十全に張りつめた充実感、存在を言祝ぐ霊妙な状態を覚醒、追慕、意識させないために仕組まれた大いなるものの意思に違いない。産まれた時に赤児が発する泣き声は、この世に産まれた喜びを表わす産声と美化されて呼ばれるけれど、その記憶を、誕生の瞬間に失わざるを得ない絶望から出る‘ことば’なのではないだろうか。そこに戻るのは止しなさい、いつまでもそれらに拘っていてはならないとする、天の配慮なのかも知れない。
 人は無明に戻ってはならない。産まれたこと、それ自体が無明なのだから、と。
 寵愛の時は終わった。
 人は、記憶を断ち切られた瞬間に産まれ、遠い昔に断ち切られたはずの記憶の世界に入った瞬間、繋がったその時に死ぬ、そういうことなのではないかと思う。
 原罪を負うとは、禁断の果実を口にしたことのみならず、羊水の揺籃における至福の時を知っている、その記憶にこそあるのではないだろうか。
posted by vino at 19:09| Comment(0) | 独り言 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月05日

仕事始め


ふゆをおいだせ.jpg 毎月第1土曜日は、市立図書館の「おはなし会」の担当日。
 1月は、ちょうど元日にあたったためお休みだったので、今日が今年の仕事始めになる。

 季節に合わせて読んだ絵本は、次の2冊。
『びんぼうがみとふくのかみ』(富安陽子・文 飯野和好・絵 小学館)
『ふゆをおいだせ』(作・富安陽子 絵・二俣英五郎 ひかりのくに)

『びんぼう〜』は、松谷みよ子さんの解題によると、民俗学者の野村純一氏が編まれた『五分次郎』という昔話の資料集に収められており、山形地方だけで語り継がれてきた話ではないかという。それを、富安さんが見事に作品化して読ませてくれる。
 居すわったびんぼうがみと一緒になって、入れ替わるために訪れたふくのかみを追い出してしまう、愛すべき、おとうとおかあのお話。飯野さんの大胆不敵なタッチの絵が物語にぴったりはまって、素晴らしい絵本になった。
『ふゆを〜』は富安さんのオリジナル作で、厳しい冬を乗り切るキツネたちのお話。ユーモアたっぷりのお話と二俣さんのあたたかいタッチの絵が、降り積もった雪を溶かして見せてくれるものは・・・。

 いつもの子供のお客さんに加えて、今日は、北茨城市立図書館の館長さんと読み聞かせボランティアの方々も読書コーナーで耳を傾けてくださった。終わった後、お互いの苦労話など懇談をして、意義ある時間を過ごせました。
 遠い所ありがとうございました。
posted by vino at 16:42| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする