2017年10月13日

交差する時間 - 黒い丸白い丸 そして花丸



ある小学校の 算数の時間
先生が黒板に 大きな丸を描いた
図形を考える時間
「これと同じに 皆さんの紙に丸を描いてください。
出来るだけ 真ん丸に描いてね」
やがて
「みんな描けましたか?」
「は〜ぃ!!」
みんなが手を挙げた 一人を除いて
先生は訝しんで その生徒の手元を見て驚いた
その子は 紙を真っ黒にしている
鉛筆で 一生懸命黒くしている
丸の線だけを 白く残して
だって
先生が丸を描いた黒板は 黒いし
白墨で書いた丸は 白いのだ
どうして
この子だけ違ったろう
他の子は何も考えずに
白い紙に鉛筆で 丸を描いただけなのに
先生は立ちどまったまま
前に進めなくなった
この子のこれは これで完結してしまっている
余白がない
取り付く島がない
丸の中に四角を 描かせるはずだった
三角や星の形も 描くはずだった
余白があれば 計算式だって書ける
何より
先生のコメントが書けるはず
だった

しかし 先生は思った
この子の 他の子どもと違う
感性について考えた

この子は 暗闇を見たのだろうか
この子は 夕焼けを見て溜息をつくだろうか
この子は 虹を見て歓声を挙げるだろうか
この子は 人の愛に微笑むだろうか
この子の未来は まぶしく輝いているだろうか

黒く塗られた紙を裏返して
先生は 紙一杯に大きな大きな花丸を描いた

花丸を君にあげよう

※続いて、拙作「花まるを君にあげよう」を朗読する。

 これが、来年一月にある、友の会の定期朗読発表会「大人のためのおはなし会」の原稿です。
標記の詩の、エピソードは先日、NHKのラジオで聞くとはなしに耳に入ったお話しです。
細部は聞き逃してしまったのですが、心に残ったところを敷衍してつくりました。

posted by vino at 12:57| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月30日

交差する時間 - 空の微睡むところ

 今日も空を仰ぎ
 空の微睡むところ
 空の機嫌の好いとき
 雲間から射す
 微光に乗り 
 心遊ばす

 かくれんぼの声がする
「もう いいかい?」
「まぁだだよぉ」

〈 見つけられたくないけれど
  見つけられたい 〉

 空の微睡むところ
 空の機嫌の好いとき

 ひとりぼっちの鬼が
 べそをかいている

 ※〈 〉:『異国の客』池澤夏樹より引用。

posted by vino at 11:04| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月13日

交差する時間 - 花まるを君にあげよう

 誰がはじめて
 花まるを描いたのか
 
 絵ごころはないけれど
 ちょっと いたずら好きな先生が
 子どもの作文に丸をつけたとき
 もっと もっと もっと 丸をあげようと思った
 それがかさなって花びらのように・・・
 
 あら、これって いいなあ

 先生は自分にも丸をつけた
 ひとつ、ふたつ、みっつ・・・
 子どもたちみんなの作文の
 ひとつの丸のうえに
 また さいしょから丸をかさねていった

 まえよりも先生には子どもたちみんなの
 良いところがどんどん見えてきた
 先生じしんも 自分の良いところが
 見えてきた
 
 「花まるを 君にあげよう」
 誰の声だろうか
 先生の耳に聞こえた

 「花まるを 君にあげよう」

 花まるはあげる人ももらう人も
 何故だか幸せにしてくれる

 「花まるを 君にあげよう」
(みんな一緒に)
 「花まるを 君にあげよう」

 ※2017.2.15
  最後の5行は、市内の小学校で読んだ時に加筆しました。
 
posted by vino at 10:05| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月09日

交差する時間 - たんぽぽ

DSC_0215.JPG

 きいろいおはなも たんぽぽ
 しろいわたげも たんぽぽ
 きょうのすだちは
 かぜまち たんぽぽ
 きょうだいみんな
 まぁるい たんぽぽ
 きょうのすだちは
 そらみる たんぽぽ
posted by vino at 13:59| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年07月01日

交差する時間 - 南の国ヘ

電線に ツバメが二羽 
並んで 羽ばたいて
ピクチャクピクチャク
しゃべってる
 
子どもたちは無事育つか
何時 南の国ヘ飛び立つか
長い渡りの行く末は・・・

そうだろうか
彼らに屈託はあるのだろうか
彼らにあるのは
そのまま そのまま
あるがまま

小さな身体に
その全てを背負って
優しく 電線に止まってる
posted by vino at 17:42| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月12日

交差する時間 - 窓辺

CIMG0008.JPG

寄る辺なく寄る
窓辺の誘惑
「考えるひとがいる」
誰を
誰が
 
想いを深くするには
窓辺の外の
遠くへ
窓辺の内の
遠くへ
往って還って
いま、ここにいる 窓辺
posted by vino at 10:42| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月02日

交差する時間 - その時およびそれ以後

崩落するまで
橋は橋だった

倒壊するまで
建物は建物だった

息を引き取るまで
人は人だった

崩落しつつある時
橋は何であるか

倒壊しつつある時
建物は何であるか

息を引き取る間際
人は何であるか

いつでも 物事が起こる寸前まで
それらの予兆でさえも畳まれていて

やがて 轟音も軋めきも悲鳴も慟哭も
後戻り出来ない頁に畳み込まれて、行く
posted by vino at 13:49| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月14日

交差する時間 - 色に添う

絵の具の色色を並べ見る
色は一々言葉に転ずる途を持たずにいる

透明に色があるとは不遜な物言いか
色に寄り添う
気配とも
断層とも

気流の揺らぎを
陽炎と言ったとて
何を言ったことにもならない
いっそ
無の揺らぎとも
戦きの碧潭とも
posted by vino at 13:08| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月13日

交差する時間 - 木と言葉と

---長田弘さんを悼んで---
一本の木を植えた次の年
その隣にもう一本の木を植えた。
次の年も、もう一本の木を植えた。
木は、しかし、林をつくらず、ましてや
森にはならずに、ただ、立っている。
木陰が出来た。
木の間に道が出来た。
風が、木漏れ日を転がしながら
通って行った。
木の葉のささやきが、通る人に語りかけ
言葉になった。
posted by vino at 16:37| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月22日

交差する時間 - 妬み

空っぽのストレスに惑う
その中に他者を請じてみたりして

妬みが嵩じて
蕩けるような甘美な憎しみが湧く
posted by vino at 16:47| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年02月06日

交差する時間 - 部屋

---ジョルジョ・モランディの画に寄せて---

埃が主役であるような静物
壜、壷、ガラス片、陶器の・・・
銅製の、錫の・・・
埃の膜を透して射す
青、緑、乳白の光り
そして、反射するかすかな金(かね)の色

戸口に射す人影、の翳

その気配に静物から湧き起こる微細な塵
または囁き
posted by vino at 14:59| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年12月08日

交差する時間 - 木漏れ陽の戯れに

木の下闇に 木漏れ陽の一点の光りの
何という優しさ
ちろちろと 踊りながら
わたしの心を
わたしの胸を 照らす

そうしておまえは
わたしの心に
いろんな いろんな 想いを廻らす
淋しさや 憧れやの
定かならぬ・・・

淋しさや 憧れや 何という優しさ
虚しいままに
わたしの心を
わたしの胸を
木漏れ陽の一点の光りが照らす

※そして、こんな詩があります。大好きなのです。

燈台の光を見つつ  伊東靜雄

くらい海の上に 燈台の緑のひかりの
何といふやさしさ
明滅しつつ 廻転しつつ
おれの夜(よ)を
ひと夜 彷徨(さまよ)ふ

さうしておまへは
おれの夜に
いろんな いろんな 意味をあたへる
嘆きや ねがひや の
いひ知れぬ---

あゝ嘆きや ねがひや 何といふやさしさ
なにもないのに
おれの夜を
ひと夜
燈台の緑のひかりが 彷徨ふ
posted by vino at 14:43| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月21日

交差する時間 - 風を結ぶ

風邪、如何ですか?

風、吹いてるね

風邪です、あなたの

ぼくの、風、いい言葉だ

熱があるのね、きっと

熱はありません、ほら

ぼくから

冷たい風が吹いてる

posted by vino at 09:47| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月28日

交差する時間 - 若葉 

若葉の中の
若葉の陰の
白い影

木漏れ陽のように
見え隠れして
何処からかシナモンの香り

若葉から落ちる
雫の中に
白い影

一瞬の陽を浴びて
リスが地を駆ける
木をよじ登る

ふと思った---
コーヒーを淹れる湯を沸かすガスボンベが消費した酸素を
5月の陽に光る若葉が生成してくれる
小さな消費と大きな生成---

若葉の中の
若葉の陰の
白い影
それは想い出から零れた
恥じらいのように眩しい
posted by vino at 17:51| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月18日

交差する時間 - 柿の木 賛歌

冬 雪がへばりついて 立つ
春 小鳥たちの止まり木
若葉 初夏 小さな花(とも見えない固まり)
密やかな造形の中に
蜜を湛えている
花蜂の群れ
青く小さかった実がぐんぐん膨らんで
これ以上は宇宙に叱られると言って
秋 色付く 何色 柿色でしょう
役目を終えた葉は斑な模様
緑の水面に極彩色の
点描を・・・
posted by vino at 10:16| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月21日

交差する時間 - 蜘蛛の巣

草臥れた蜘蛛の巣を見た

主の姿が見えない
所要で出掛けたのか
あるいは

蜘蛛が巣を捨てることがあるのだろうか

破れれば繕いながら
獲物を待つ蜘蛛は知っている

主がいなくなると
蜘蛛の巣も周りの空気も
淀んでいる

蜘蛛の巣の破れた穴は
空の穴のように虚ろだ
posted by vino at 16:48| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月01日

交差する時間 - ストーブ

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櫟の薪が爆ぜる
燠が赤く膨らんで
ストーブを熱くする

〈 炎の中に思い出を燃やす 〉

ポットの湯が滾って
コトンコトンと湯気を吐く
コーヒーサーバーに注がれた湯は
残りのコーヒーを溶かして
琥珀色の泡を立たせる

〈 泡が弾ける数だけ過るものがある 〉

焙られた握り石は
もう割れんばかりに熱い
コーヒーが汚垂れたカップ二つ
辺りは程の良い汚れに満ちている

〈 暦は捲られた 〉
posted by vino at 13:16| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年12月07日

交差する時間 - 慰め

妻を亡くした人が言った

僕は妻を亡くしたのではありません
妻である人を亡くしたのです

わたしは粛然として聴いた
深淵の底にストンと落とされた

家に帰って辞書を引いた
「慰め」には、「もてあそぶ」
という謂いもあるのを知って
ひとり愧じた

御心をナグサマれ候へかし

慰め所の有りや無しや
posted by vino at 12:05| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年11月20日

交差する時間 - 竹篭

’時間’を、そう、果物のように
竹篭に盛って机に置いて
眺める算段でいた
両手を離した、その瞬間には
’時間’は篭の中で左見右見していたっけが
光の渦がだらけて溶けると
一緒になくなった
別に、追いかけもしなかったけれど

竹篭の目だけがちらちら
陽を透かしているばかり
posted by vino at 19:07| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月20日

交差する時間 - 反古

書き損じた紙を丸める

皺を解かないまましかめっ面でいる
平板で無口だったものが
山あり谷あり、陰影を刻んで・・・

オイ、妙に存在感があるなぁ

切れ切れに見える字面が
脈絡のないかに見えた文章が
 
オイ、妙に意味有り気だなぁ

小さな平板に文字を書き足す

思い直して皺を伸ばしてみても
心像は戻らない
posted by vino at 16:25| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする